スタコラ:2022-01-31

「子供を殺してください」という親たち

2022-01-31
林田

 うちの娘は無類のマンガ好きである。そんな娘から、ある一冊のマンガをお勧めされた。題名は「子供を殺してください」という親たち。なんともセンセーショナルなタイトルだ。そしてこの作品がかなり私の心に衝撃を与えた。

 原作の押川剛氏(福岡県北九州市出身)は、トキワ警備(現・株式会社トキワ精神保健事務所)を創業後、説得による「精神障害者移送サービス」を日本で初めて創始。強制拘束を否定し、対話と説得によって患者を医療につなげるスタイルを確立した。これまでに移送した患者は1000人を超え、2002年以降は、自立・更生支援にも携わっている。

 本作は、そのトキワ精神保健事務所が行っている「精神障害者移送サービス」での活動を描く、ノンフィクション作品である。

 凄惨な事件が起こるたびに、私はいつもその家庭環境を想像して、こうなる前にもっと出来たことはなかったのかと心がざわつく。事件を起こした容疑者やその家族を想像して、やるせない気持ちがつのる。また、容疑者が精神疾患を患っていることも珍しくない。精神疾患を患う人々の環境やバックグラウンドについて、漠然と疑問に思っていた。

 そんな時にこの作品に出会った。精神科治療を必要としながら、適切な対応をとられていない子供たちがいる。親からの依頼で、そうした子供たちを説得し、医療へとつなげる原作者のもとには、万策尽きて疲れ果てた親がやってくる。過度の教育圧力に潰れたエリートの息子、酒に溺れて親に刃物を向ける男、ゴミに埋もれて生活する娘…。精神疾患を患い、家族から隠蔽され、医療に長く繋げられず、孤独なまま病状が悪化していく患者を、更生へと導く話が具体的に描かれていく。

 精神疾患は、今や5人に1人が罹患するといわれている。精神疾患の問題は誰にでも起こりうる。

 私なりの感想は、孤独はじわじわと人を狂わす、ということだ。子供はもちろん、かつて子供であった大人も、人同士の関わり、沢山の愛情が必要不可欠だと感じた。

 うまく表現できないまま寄稿してしまったが、ぜひこのタイトルを検索して中身を覗いて頂きたい。多くの人に知って欲しい作品だと感じた。今、社会へ漠然とした不安を持つ私の心に一石を投じてくれた。漫画を侮ることなかれ。

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