スタコラ:2023-05-01

それでも地球は回っている

2023-05-01
大隈信夫

 政府は日本学術会議法改正案の今国会提出を見送った。

 これは、2020年9月、学術会議が推薦する会員候補105人の内6人を、時の首相である菅前首相が、理由を一切明らかにせず任命を拒否したことに端を発し、政府は岸田文雄政権に代わった後も、一貫して任命拒否の理由を明らかにせず「一連の手続きは終了した」とする説明を繰り返してきた。
 この事態の中で、学術界からは、会員候補6人の任命拒否は、「学問の自由と独立性の侵害」だけでなく、憲法が保障する国民の「思想・良心の自由」、「信教の自由」、「表現の自由」、「言論の自由」への攻撃として、174の学会をはじめ、日本ペンクラブや映画関係者、日本劇作家協会、日本キリスト教協議会、労働組合など幅広い団体・個人が批判の声を上げた。

 そして今回、日本学術会議は、4月17日、18日に開催した総会において、当事者である学術会議との真摯な対話を欠いたまま、学術会議法の改悪案を今国会に提出しようとしている政府に対し、その提出を取りやめ、「開かれた議論の場を設けるべきだ」とする勧告を決議した。
 海外の自然科学系のノーベル賞受賞者61人は、日本のノーベル賞受賞者ら8人が日本の学術会議法改悪への危惧を表明した声明を支持するとし、「政府は性急な法改正を再考し、日本学術会議との議論の場を重ねることを強く希望」するとした共同声明を発表した。

 こうした政府への批判が広がる中で、政府は今国会での提出見送りを決めた。
 しかし、会員候補6人の任命拒否についての理由は明らかにせず、今後、会員選考にあったって選考諮問委員会を設け、首相が任命する委員によって会員選考を可能にし、日本学術会議の独立性を損ねる狙いを隠していない。
 日本学術会議は、戦前に科学者が戦争遂行の国策に利用されたことへの反省から、いかなる軍事研究にも一貫して反対の姿勢を取り続け、「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」という旨の声明を発表してきている。
 政府は、こうした日本学術会議のまっとうな基本姿勢への攻撃であり、真理のみに忠実であるべき科学を捻じ曲げようとする狙いが透けて見える。

 政府は、次の言葉をどう受け止めるのだろうか。
「それでも地球は回っている…」
 地動説を主張するガリレオが、カトリック教会の宗教裁判において有罪判決の後、つぶやいたとされるエピソードは、有名な話である。

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