2015-09-07
柿本
白川部長が死んだ。 人の話ではない。 金魚水槽の中にいた巻貝の話だ。
この夏、小3の息子がお祭りでゲットしてきた3匹の金魚たちのために、久しぶりに水槽を引っ張り出して水を張り、彼らを放った。 淡水魚を飼うのは久しぶりなので、すっかりノウハウを忘れている。 水のカルキ(塩素)抜きはした。 底面にじゃりも入れた。 ろ過装置は当然だ。 水草もゆらゆらしている。 うむ、美しい・・・でも、何かが足りない。私は、古い記憶をたどって、その「なにか」を求めた。巻貝だ!
魚を飼っていると、水槽の内側にコケのようなものが生えてくる。 それをキレイに食べてくれるのが巻貝なのだ。 かつて、グッピーを飼っていたとき、私たちはコケに悩み、その解決法を調査し、巻貝にたどり着いた。 グッピーのとき、巻貝は驚くべき働きを見せ、水槽の内側はいつもピカピカだった。 その高い貢献に、私は敬意を表して、巻貝に「白川部長」と名付けたのだった。
果たして、2代目白川部長は、大きな期待とともに金魚水槽に投入され、これで完璧のはずだった。水槽の中の小さな世界、「金魚株式会社」は、完全なるエコシステムを形成するはずだった。
しかし、目論見は、外れた。
白川部長は、ほどなく死んでしまった・・・。 何がいけなかったのか?
原因は簡単だった。 始まったばかりの「金魚株式会社」には、白川部長が解決すべき課題が存在していなかったのだ。 つまり、まだコケがあまり生えてなかった!
どんなに優秀な人材も、解決する課題がないと力を発揮できない。 問題解決する場所がないと、せっかくの力の見せ場がない。 課題があるからこそ、彼は組織の中で光るのだ。 これは、ヒト(貝)の行動と成果の価値は、相対評価であるということを意味している。 ダメ社員がいるからこそ、できる社員は評価され、ダメダメな企業があるからこそ、いい会社が評価される。
したがって、もし、私たちが「他者よりイケテル!」と、自信に満ち溢れるとき、私たちはむしろ自戒し、自分よりイケてない他者に感謝しなくてはならない。 私たちが光るのは、課題を与えてくれる彼らの存在のおかげであり、日々生きながらえることができるのも、彼らの存在があるからこそなのだ。 「お陰さま」とは言いえて妙である。 陰があるからこそ、光が注目されるのだ。
・・・ときが過ぎ、コケも十分に生えたようだ。 三代目白川部長、右・左(区別がつかないので・・・)は、いま、せっせせっせと仕事をこなしている。 2代目を死に追いやったトップとしての経営判断は慙愧にたえないが、いま、私はみんなに心から感謝している。 2代目、3代目の白川部長に。 そして、コケに。