スタコラ:2019-01-14

辞本涯(じほんがい)

2019-01-14
神戸

 東シナ海を見下ろす五島三井楽の丘の上に「辞本涯」(本涯を辞す)と書かれた石碑がある。 空海が遣唐使として唐に渡る途中、三井楽の港に立ち寄ったときに残した言葉と言われている。 意味は「最果ての地を去る」ということと観光資料にはある。 これから大海原を乗り越えようとしている空海の感慨であったのであろう。

 ただ、初めてこの碑文を読んだとき、私は別な解釈をしていた。つまり、「本涯(もともと天に与えられた自分の生涯)を辞す(辞退する)」と解釈していた。 そして命を懸けてことに臨む空海の決意を感じていた。 しかし私の思い違いであったようだ。

 この当時、海を渡って唐に行くことは難しくこの時も4艘の船団のうち無事唐にたどり着いたのは2艘のみといわれている。 まさに命がけであったのだ。

 その後空海は唐で仏教を学び、2年後に帰国して真言宗を開いた。 教えを広めるために網代笠をかぶり錫杖(しゃくじょう)を持ったおなじみの姿で全国各地を歩いたが、東シナ海を乗り切った彼にはもう怖いものはなかったに違いない。

 ひるがえって、自分の一生を顧みるとき、果たして命を懸けてことに臨んだことなどあっただろうか、いつも安全な道ばかり歩いてきたように思う。 悔いは残るがもう遅い。

五島三井楽辞本涯

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