2016-07-04
大隈信夫
ある社長が「従業員に“いいたいこと”がなかなか伝わらん。なんでわからんとやろうか」と言ってきた。
この社長は、若いころから専門職としての実績を積み上げてきた方で、その考え方や専門性は、周りの多くの人からも認められている。
そして、現在はその確信をもって会社の経営にあたっているが、従業員になかなかその思いが伝わらないと言う。
そこで、どんな会社をつくりたいのかを尋ねると、社長は「そりゃぁ、お客さんに満足してもらえるサービスを提供することたい。分かっとろうもん」と言い、
従業員に求めるものは何かを聞くと、社長は「お客さんに満足してもらえるサービスを提供するために、日常的に専門性を高めて信頼されるようになることたい。同じこったい。」と明快だ。
そこで、会社の理念や方針はどうなっているかを尋ねてみると、社長は「そんなもんは忙しくて決めていないが、いま言ったことはいつも言うとる。」と言う。
また、社長は「仕事のやり方についても、いつも同じようなこと指摘せんといかん」と、従業員の仕事ぶりにも不満があるようだ。
「専門職なら知っとかないけんことば分かっとらん」と言う。
そこで、仕事の基準を決めているかを尋ねると、社長は「仕事は仕事やけん特に決めとらん。分かっとろうもん。」と言う。
賢明な読者のみなさんにはもう分かったと思う。
社長の思いや基本理念、方針や仕事の基準は、社長の頭の中だけにあり、その頭を割ったとしても知ることができるものではない。
結局、社長の思いや基本理念、方針や仕事の基準は、少しは小出しにしているかもしれないが、「分っとろうもん」で、日常の業務と指導がすすめられている。
「どうして分かってくれないのか」と言っても、そのことを伝えるためには“見える化”することが最低限の要件である。
“どうして従業員に伝わらないのか”と嘆いてみても、“分かっとろうもん”から、この“見える化”への転換を図らなければ、それは無理な注文だと言える。