2021-08-02
森本
YouTube 上にファスト映画
をアップロードしていた3人の方が先月逮捕され、さらに2人が「著作権侵害の疑い」で追加起訴されました。
ある映画のストーリーを動画や静止画を用いて10分程度にまとめ、YouTube 上に公開されたコンテンツをファスト映画
と呼び、逮捕された方々はそれをアップロードし数百万円の広告収入を得ていたとのこと。たんなる映画の紹介や感想の枠を超えて、権利者(映画の配給会社や製作者)の利益を侵害したとのことです。
YouTube 上には複数の「ファスト映画を公開しているチャンネル」が存在し、そこで紹介されている 2100 本の動画を見た人が実際に映画館に行って入館料を払ったとしたら 900 億円を超える興行収入があっただろうという試算があります。
映画業界の被害は甚大で、映画業界が疲弊し映画製作自体にも影響を及ぼし、これから先も映画の楽しみを味わうためにも著作権は守られるべきだ、という意見もありました。
最後の部分には納得しますが、本当にファスト映画が、映画業界に被害を与えてると言えるでしょうか。
そもそもファスト映画で紹介している映画を上映している映画館なんてありません(ほとんど)。なぜならファスト映画の対象は公開から何年も経った過去の作品で、動画配信サイトかレンタルDVDでしか観れないものだからです。
なので先の興行収入の額は無意味です。
では、動画配信サイトやレンタルDVD屋さんへ与えた被害はどれほどでしょうか。
ファスト映画を観たので、これで動画配信サイトで観る必要はなくなった、あるいはレンタルしなくてイイや、と考えた人がいるのか、が問題となります。
中にはそう考える人もいるかもしれませんが、全体の1%未満だと私は想像しています。
そもそもファスト映画で満足する人達は、元々映画館に行くことや、DVD をレンタルすることや、配信サイトで実際の映画を鑑賞する習慣のない人達であるように思います。
私自身、ファスト映画で知らない映画を紹介されて興味を持ち、その映画を観ようと思ったことがあり(当然、観ました)、過去に観た映画でも「そんな解釈もあるのか」と思って再鑑賞したこともあります。
私にとってファスト映画は、世の中に数多くある映画の中からとりわけ面白い映画を選別して紹介してくれているコンテンツでした。その選別はアップロードしたチャンネル開設者が行ってくれたのですから、広告でも何でもバンバン収入を得てください、といった感謝の気持ちしかありませんでした。
昨年問題になった「漫画村」とは本質的に異なります。「漫画村」で読んだコミックを実際に購入する人はいないでしょうから。
あるコンテンツを紹介し、あらすじをまとめ、面白い部分を抜粋して、他人にそれを公開することが違法なわけがなく、元の権利者の許諾を得ないことが問題ならば、「10分で読める世界の文学」なんかもダメということになります。
どんな紹介の方法でも、そのようなまとめ方でも、そこにはそれを行った人の思想や信条やモノの見方が反映されているもので、これは広く憲法で保障されている権利の一つでもあります。
唯一、今回逮捕者が犯した罪があるとするなら、その映画のある部分の動画には決定的な価値があって、それは誰が考えても著作権的な意味で重要で、商業的な価値も認められる部分を勝手に公開した、なんてのに相当する場合だけだろうと思います。
例えば「俺たちに明日はない」のラスト5分間だけを抜粋して公開したり、「男はつらいよ」シリーズから寅さんの長セリフ部分だけをまとめてアップしたりする場合がこれにあたります。
そもそも、何らかの題材を「まとめる」行為は、かなりクリエイティブな活動の一つで、90 分も 120 分もある映画をたった 10 分にまとめるなんて大変な作業で、大変だから違法性がないわけではないですが、その大変な作業は、元の映画にあったであろう魅力を引き出す力があるということを、もっとみんなが意識すべきだと思います。
たとえ法的に問題があったとしても「これは映画の宣伝につながるので、この映画を多くの皆さん、じゃんじゃんバリバリ、ファスト映画で紹介してください」みたいなことを配給会社には宣言していただきたい。私は強くそう考えています。
他人の作った映画をまとめてアップするだけで、3人で 450 万円も儲けたのが許せない、そう考えた人がいたとしたら、ちょっと悲しい。切ない。
そのような考えと、今回逮捕にまで至った事実とは関係ないとは思いますが、世の中にファスト映画を擁護する意見が一つもないことに憤りを感じての今回のコラムでした。