2016-11-07
柿本
先日、とある秋のイベントで魚の手づかみを体験した。
魚のほかにカニもいた。
私は喜んで魚とカニをゲットし、用意しておいた氷の入ったクーラーボックスに獲物を入れ家に帰った。
魚は、さばいて塩焼きにした。
美味しかった。
問題はカニだ。
カニは脅威の生命力を発揮し、氷水の試練を耐え家に帰っても生きていた!
流水にさらすと、温度が上がったせいか、カニは少し元気になった。
ますますカニは「生きて」いた。
そこまでカニが食べたいわけではない。
私はカニの生命力に敬意を表し、それらを逃がすことに決めた。
近くの川にそっと放った。
私はカニを助けたのだ。
「お父さんはカニを助けたから。ぶくぶく泡を吹くカニに似た人が何か届け物をしてきたら、それはカニの『恩返し』だから。ありがたく受け取りなさい」
次の日、私は面白がってよく行く店でこの話をした。
すると店主が言った。
「カニね…まだまだやね。自分の知り合いはカメをときどき助けているよ」
なに、カメ…だと?
聞けば、近くのお堀のカメが道路にひっくり返って動けなくなっていることがあるらしい。
それを優しく元の場所に戻しているというのだ。
カメを助けると「竜宮城」とか「乙姫様」とか、かなりいいことがありそうなことは、子供の頃から知っている!
恩返しという視点ではカメはカニより筋がいい。
私は「負けた」と思った。
早速、カメ出現ポイントの情報を詳しく聞いて家に帰った。
「よく聞きなさい。こんどはカメも助けるから。背中に甲羅のようなモノを背負った人が贈り物を持って来たら、それはカメの『恩返し』だから。
ありがたく頂戴しときなさい」
私はチャンスを逃さない男なのだ。
ふふふ。
しかし次の瞬間、
「でも…結局、浦島太郎は幸せにはなれなかったよね?」
極めて冷静な反論が行われた。
「玉手箱…急速な加齢をもたらす悪魔のボックス…」た、確かに。
ああ、私は助けるべき対象を間違ってしまった。
何かほかの、確実に私に利益をもたらす動物を私は助けなければならない。
なんだ?それはいったいなんだ?
ツル…か?!
「けっして覗かないでください」
そう言って「つう」は反物という高額換金できそうなブツをおじいさんに残した。
ツルこそ恩返しの本命だ。
これだ!
と、いうわけで、わたしはいま困っているツルの情報を探しています。
決して覗きません。
だってそのほうがずっと反物を作ってくれるから。
商品に付加価値がつく仕掛けを知っているから。
ブラックな労働環境はきっとこうやって生まれている。
人間とは、どこまでも強欲な生き物である。